漁業は日本の食文化と地域経済を支える重要な産業ですが、近年では環境負荷や資源枯渇の問題が深刻化しています。漁網や延縄などの漁具に使われるプラスチック素材が、使用後の処理や海洋流出によって生態系に影響を与えていることも課題となっています。SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」は、こうした課題に対する国際的な指針です。本記事では、漁業とSDGsの関係性から、日本が直面する課題、解決策、国内外の取り組み事例までを紹介します。
SDGsと漁業の関係性

持続可能な開発目標(SDGs)の中でも、漁業は「海の豊かさを守ろう(目標14)」と深く結びついています。水産資源の保護は単なる環境問題ではなく、食料供給や地域経済、文化の継承に直結する重要なテーマです。国際的な枠組みの中で、資源を守りながら漁業者の生活を安定させる取り組みが求められています。
SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」と漁業の接点
SDGs目標14は、海洋資源を持続可能な形で利用し、乱獲や違法漁業を防ぐことを目的としています。漁業は食料供給の基盤であると同時に、地域経済や文化を支える重要な産業です。そのため、資源保護と漁業者の生活安定を両立させることが国際的な課題となっています。SDGs14は、こうした両立を実現するための枠組みとして、各国や地域に具体的な行動を促しています。
水産資源の減少と国際的な警鐘
世界の水産資源の約35%は、すでに持続可能な水準を超えて漁獲されていると報告されています。過剰漁獲は親魚の減少を招き、資源の回復を困難にする深刻な問題です。日本近海でもサンマやイカの漁獲量が減少し、資源管理の必要性が高まっています。国連食糧農業機関(FAO)や水産庁は、国際的な協力と科学的根拠に基づく資源管理の強化を呼びかけており、持続可能な漁業の実現に向けた取り組みが急務の課題です。
漁業が抱える環境・社会・経済の複合課題
漁業は資源問題だけでなく、環境・社会・経済の複合的な課題があります。海洋汚染や気候変動による漁場環境の悪化は、漁獲量や魚種の変化を引き起こしています。また、長時間労働や担い手不足といった労働環境の問題も深刻です。さらに、市場価格の変動や輸入依存による経済的不安定さが漁業者の生活を圧迫しています。これらの課題は相互に影響し合い、持続可能な漁業の実現を難しくしているのです。
小規模漁業と地域経済への影響
地域の小規模漁業は、雇用の確保や食文化の維持に欠かせない存在です。しかし、資源の減少や漁獲制限は収入減につながり、地域社会に与える影響も少なくありません。その一方で、地域連携や共同管理を通じて資源を守りながら漁業を続けるモデルも生まれ始めました。こうした取り組みは、持続可能な漁業を実現するための重要な鍵となり、地域経済の安定と文化の継承を支える役割を果たしています。
日本の漁業が直面する課題

日本の漁業は、資源の減少や地域経済の衰退といった深刻な課題に直面しているのです。水産庁や研究機関の調査でも資源枯渇が明らかになっており、持続可能な管理と制度改革が急務となっています。
日本周辺の魚種の約半数が枯渇状態
水産庁の調査によると、日本周辺で漁獲される50魚種84系群のうち、約49%が資源枯渇状態にあるとされています。豊富とされる魚種はわずか17%にとどまり、資源回復には長期的かつ計画的な管理が不可欠です。世界的に過剰漁獲が問題となっていますが、日本近海でも同様の傾向が見られ、資源減少は深刻な段階に達しています。国立研究開発法人水産研究・教育機構の資源評価結果でも、科学的根拠に基づく管理の必要性が繰り返し指摘されているのです。
地域経済と食文化への影響
漁業の衰退は、沿岸地域の雇用減少や人口流出を招き、地域社会の存続に直結する問題となっています。地元で獲れる魚介類が減少すれば、伝統的な食文化の継承が困難になり、地域の特色が失われてしまうでしょう。さらに、観光資源や地域ブランドの価値低下にもつながり、経済的な打撃は一層大きくなります。漁業は単なる産業ではなく、地域の暮らしや文化を支える基盤であるため、資源の減少は社会全体に広がる影響を及ぼしているのです。
科学的管理と漁業法改正の動き
こうした状況を受け、2020年には漁業法が改正され、科学的根拠に基づく資源管理が強化されました。漁獲可能量(TAC)の設定や、個別漁獲割当(IQ)制度の導入が進められ、資源を守りながら持続的に利用する仕組みが整えられつつあります。さらに、資源減少を未然に防ぐための「漁獲制御ルール」の策定も重要視され始めました。これらの取り組みは、国際的な資源管理の潮流に沿ったものであり、日本の漁業を未来へつなぐための大きな一歩となっています。
漁業におけるプラスチック廃棄物の課題

漁業で使用される漁具の多くはプラスチック製であり、耐久性や利便性の一方で廃棄物問題を引き起こしているケースも少なくありません。処理や回収の仕組みが不十分なため、海洋流出や環境負荷が深刻化しています。
漁網・延縄・ブイなどの漁具はほぼプラスチック製
国内で使用される漁具の多くは、軽量で耐久性や耐水性に優れたプラスチック素材で作られています。代表的なものは漁網、延縄、ロープ、ブイなどです。これらは漁業活動を効率的に行うために欠かせないものですが、年間で約2万トンもの漁業用プラスチック製品が生産され、その一部が使用後に適切に処理されず、海洋へ流出しています。利便性の裏側で、資源管理や環境保全に大きな課題を残しているのです。
廃棄物の処理コストとインフラ不足
使用済みの漁具は、海水による塩分や生物の付着があるため、分別やリサイクルが非常に困難です。その結果、多くが埋め立て処理や焼却処理に回されており、環境負荷の軽減とは言えない状況が続いています。さらに、漁港や沿岸地域には十分な回収・処理施設が整っていないため、処理コストが漁業者自身の負担となっているのが現状です。この負担は漁業経営を圧迫し、持続可能な漁業の実現を妨げる要因の一つとなっています。
海洋流出による生態系・漁業資源への影響
強風や高波、荒天時には漁具が流出し、海洋に残されたまま「ゴーストギア」と化すことがあります。ゴーストギアは魚介類や海鳥を捕獲し続け、資源に深刻な被害を与え続けているのです。さらに、長期間海中に漂うことで劣化し、マイクロプラスチックとなって生態系に取り込まれます。これにより食物連鎖を通じて広範な汚染が進み、漁業資源の減少や人間の健康リスクにもつながる可能性も否定できません。
焼却処理によるCO₂排出と資源ロス
漁具の多くは最終的に焼却処理されますが、この方法は温室効果ガスであるCO₂を排出し、環境負荷が高いという問題を抱えています。また、プラスチック素材を再資源化する機会を失うことにもつながり、資源の有効利用が進みません。一部の地域ではサーマルリサイクルや燃料化といった取り組みが進められていますが、全国的に普及しているとは言えず、持続可能な解決策としてはまだ道半ばの状況です。
持続可能な漁業の取り組み事例

世界各地では、資源を守りながら漁業を続けるための多様な取り組みが進められています。科学的根拠に基づく管理や地域連携、技術革新などが組み合わされ、持続可能な漁業モデルが形成されつつあります。
漁獲量の制限と禁漁期の導入
持続可能な漁業を実現するためには、科学的な資源評価に基づいた漁獲量の制限が不可欠です。各国では漁獲可能量(TAC)を設定し、過剰漁獲を防ぐ仕組みを導入しています。さらに、魚の繁殖期や資源回復期に合わせて禁漁期を設けることで、資源の再生を促進しようとする取り組みも行われています。こうした管理手法は、短期的な収益を抑える一方で、長期的には安定した漁獲と漁業者の生活を守る効果があるのです。資源を守りながら利用するという考え方は、国際的にも広がりを見せており、持続可能な漁業の基本的な柱となっています。
海洋保護区の設置と生態系アプローチ
生物多様性の高い海域を保護区として指定し、漁業活動を制限する取り組みも進められています。海洋保護区では、魚類や海洋生物が安心して繁殖できる環境が確保され、生態系全体の回復が促進されているのです。沿岸地域では、漁業と保護区管理を組み合わせた地域モデルも存在し、資源保護と地域経済の両立を目指しています。こうした生態系アプローチは、単に魚を守るだけでなく、海洋環境全体を健全に保つことにつながり、長期的な漁業の安定にも寄与しているのです。
養殖漁業の環境配慮と技術革新
天然資源の減少を補う手段として養殖漁業が拡大していますが、その環境負荷を軽減する取り組みも重要です。近年では、魚粉に依存しない植物性原料や代替飼料の開発が進み、持続可能な飼料供給が模索されています。また、排水処理技術や海底環境の保全技術を導入し、周辺環境への影響を最小限に抑える努力も不可欠です。さらに、陸上養殖や循環型システムの導入により、環境負荷を大幅に低減する試みも広げなければなりません。これらの技術革新は、養殖業を持続可能な産業へと進化させる鍵といえます。
漁獲証明制度とモニタリング技術の活用
漁獲物の合法性や持続可能性を証明する制度として、MSC認証などの漁獲証明制度が普及しています。これにより、消費者は安心して持続可能な水産物を選ぶことができるようになりました。これは、漁業者にとっても市場での信頼性向上につながっています。さらに、衛星やドローン、IoTセンサーを活用した漁場監視も進んでいます。現在では違法漁業の抑止や資源管理の透明性向上に欠かせません。こうした技術の導入は、国際的な資源管理の枠組みを強化し、漁業の持続可能性を高める重要な役割を果たしています。
地域による共同管理とソーシャルビジネスの展開
持続可能な漁業を実現するには、漁業者だけでなく行政や研究機関との連携が欠かせません。地域ごとに共同管理体制を築き、資源を守りながら漁業を継続する仕組みが広がっています。さらに、地域ブランド化や観光資源化を通じて収益を多角化するソーシャルビジネスの事例も増えています。例えば、地元の魚を活用した商品開発や観光イベントは、漁業と地域振興を結びつけ、持続可能な地域経済の基盤を形成しているのではないでしょうか。こうした取り組みは、資源保護と地域活性化を同時に実現するモデルとして注目されています。
持続可能な漁業に向けた解決策

漁業におけるプラスチック廃棄物や資源減少の課題に対しては、素材転換や管理体制の強化など多角的な解決策が不可欠です。国や自治体、漁業者が連携し、制度と技術を組み合わせた取り組みが進められています。
漁具の素材転換(生分解性プラスチック・紙)
従来の漁具は耐久性を重視してプラスチック素材が多用されてきましたが、廃棄後に分解されず環境に長期的な負荷を与える問題がありました。そこで注目されているのが、生分解性プラスチックや紙製漁具への移行です。これらの素材は海中で一定期間が経過すると自然に分解されるため、海洋生態系への影響を大幅に軽減できるでしょう。すでに国内外で実証試験が行われており、補助制度や研究開発支援を通じて普及が進められています。今後はコスト面や耐久性の課題を克服し、実用化を広げることが持続可能な漁業の実現に直結するでしょう。
漁具マーキングと流出防止策
漁具の流出や不適切な廃棄を防ぐために、識別マークやQRコードを付与して所有者や使用履歴を管理する取り組みが進められています。これにより、漁具の追跡が可能となり、違法投棄や不適切な処理を抑止する効果が期待されているのです。また、荒天時の流出を防ぐために係留の強化や回収ネットの設置といった物理的な対策も欠かせません。こうした管理と防止策を組み合わせることで、漁具の海洋流出を減らし、資源保護と環境負荷の低減を同時に実現することが可能になります。
廃棄物の回収・リサイクル体制の整備
使用済み漁具を適切に処理するためには、漁港や沿岸地域に専用の回収拠点を設置することが不可欠です。さらに、海水による塩分や生物付着を除去したうえで再資源化する技術の開発も進められています。こうした技術を活用することで、従来は焼却や埋め立てに回されていた漁具を新たな資源として循環利用できる可能性が広がっているのです。また、漁業者・自治体・企業が連携してリサイクルループを構築することで、コスト負担を分散しつつ効率的な処理が可能になります。持続可能な漁業の実現には、このような地域密着型の回収・再資源化体制が欠かせません。
地域ごとの処理指針と法整備
漁具廃棄物の処理は地域特性に応じた対応が必要であり、各地域でガイドラインを策定しなければなりません。例えば、漁業形態や漁港の規模に応じて処理方法を柔軟に設計することで、現場に即した効果的な対策が可能となります。また、海洋ごみ削減に関する条例や規制を強化し、違反行為に対する罰則を設けることも重要です。さらに、国際海事機関(IMO)などの国際的枠組みとの整合性を確保することで、日本の取り組みを世界基準に合わせ、国際的な信頼性を高められます。こうした制度面の整備は、持続可能な漁業を支える基盤となるでしょう。
まとめ

漁業はSDGs達成に不可欠な分野であり、環境・経済・社会の三側面で複雑な課題を抱えています。資源の枯渇やプラスチック漁具の廃棄は、海洋環境の悪化だけでなく、地域経済や食文化の継承にも深刻な影響を与えているのです。持続可能な漁業を実現するためには、科学的根拠に基づく資源管理、生分解性素材への転換、回収・リサイクル体制の整備、そして地域連携が欠かせません。国内外の先進事例から学び、制度面と現場の両面で改革を進めることが、未来の漁業を守るための鍵となります。

