SDGsの推進には、地域医療の課題改善が不可欠です。地域医療には多種多様な課題があり、一長一短に改善できるものではないということが現実でもあります。首都圏の都市部や関西圏の都市部などでは、地域医療に関する課題の実感が湧かないかもしれません。しかし、地域医療のなかでも、比較的人口密度が低い東北6県においては、その課題も深刻です。それ故に、地域医療構想に対して、真剣に取り組んでいます。
本記事では、SDGsと地域医療の関係性や地域医療の課題や東北各県の地域医療への取り組みとSDGsとの関係性を紹介します。東北地方に限らず、SDGsと地域医療に関心のある人はぜひ参考にしてください。
SDGsと地域医療の関係性



地域医療と関連の深い主なSDGsの目標は、「目標2:飢餓をゼロに」や「目標3:全ての人に健康と福祉を」、「目標6:安全な水とトイレを世界中に」です。SDGsの根幹は、サスティナブル(持続可能)ディベロップメント(開発)ですが、開発するためには人々が健康でなければなりません。
人々が健康であるためには、地域医療の課題を改善する必要があります。次項で紹介しますが、地域医療にはさまざまな課題が山積しているのが現状です。しかし、地域医療の課題が改善できれば、それがSDGsへの大きな貢献につながります。このことから分かるように、SDGsと地域医療には密接な関係性があるのです。
地域医療の主な課題

地域医療の課題は多種多様であり、地域によっても課題が異なるため、各都道府県は地域医療構想を策定しています(東北地方は後述)。しかし、地域医療構想は推し進められていても、その地域医療を担う医療機関側は、多くの課題を改善しなければなりません。ここでは、医療機関が抱える地域医療の主な課題を3つ紹介します。
地域医療を支える医療従事者(人的リソース)が不足している
地域医療の大きな課題として、医療従事者(医師や看護師、介護士など)の慢性的な不足があげられます。少子高齢化の中で高齢者人口は年々増加しているため、医療のニーズも年々増加傾向です。しかし、地方を中心に医療を支える医療従事者の人手不足が、深刻化しているのが大きな課題となっています。
厚生労働省によると2020年における医師の数は33万9,000人で、看護師は173万4,000人となっており就業者数は右肩上がりに増加しています。しかし、医療従事者の人数が増えても、地域医療における医療従事者の数を満たしているとは限りません。医療従事者の多くは、条件が良い都市部の医療機関に勤めています。医療従事者の地域偏差も地域医療の人手不足の原因です。
参考:厚生労働省 令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況
地域医療の要でなる医療機関の閉鎖が後を絶たない
近年は、医療機関の閉鎖が増加しており、特にコロナ禍以降の閉鎖件数は多い状態が続いています。帝国データバンクによると、2023年の医療機関の休廃業や解散件数が709件でした。そのなかで診療所の休廃業や解散件数は580件を占めています。医療機関全体としても、診療所の休廃業や解散件数はどちらも過去最多となりました。
地域医療を維持するためには、医療機関の存在は不可欠です。また、1つの医療機関が閉鎖すれば、他の医療機関への負担が増加します。医療機関の負担の増加は、さらなる休廃業や解散へとつながる可能性もあるため大きな課題となっているのが現状です。
参考:帝国データバンク「医療機関の 「休廃業・解散」 動向調査 (2023 年度)」
地域の医療機関の間での連携が難しい
医療機関の閉鎖が増加するなかで、医療機関は自主的に連携することが求められています。これは、各県が定める地域医療構想でも、多くの県が中核に置いている施策です。しかし、医療機関は診療科目などが異なったり、医療機関によって方針や基準などに違いがあったりします。そのため、緊密に連携することは難しいのが現状であり課題となっているのです。
医療機関の連携には患者情報の引き継ぎが不可欠ですが、その情報についても個人情報を伴うためセキュリティ面への不安が障壁となるケースも少なくありません。また診療情報を医療機関で共有する場合は、原則として患者の同意を必要としますが、この同意の取得や連携先への伝達などが負担となることも、連携を難しくしている一因となっています。
地域医療振興協会のSDGsの取り組み

SDGsと地域医療の関係性を理解するためには、地域医療振興会のSDGsへの取り組みを知ることが重要です。同協会では、SDGs目標3を最も重要な取り組みとしています。SDGsの目標3は、「すべての人に健康と福祉を」であり、あらゆる年齢のすべての人々が健康的な生活を確保し、福祉を促進することを目標としているのです。
具体的には、感染症の根絶や妊産婦・新生児・5歳未満児死亡率の低下、非感染性疾患の予防や治療、などへのアクセスやユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成などが含まれています。ここでは、その目標3以外のSDGsの目標別に、地域医療振興会取り組みを通してSDGsと地域医療の関係性を紹介します。
SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」への地域医療の取り組み
SDGsの目標4である質の高い教育を供給することで、地域医療に貢献する医療従事者の育成につながる可能性が高まります。地域医療振興協会では、地域医療に貢献する医療従事者の養成に積極的に取り組んでいる最中です。
初期研修プログラムでは、基幹型臨床研修病院で認証医療医の研修を実施し継続しています。専門研修プログラムとしては、総合診療科や内科、外科、小児科、産婦人科などのプログラムに沿って専門医の研修を実施中です。地域医療に必要な人材を確保し、質の高い医療の充実を図っています。
SDGs目標8「働きがいも経済成長も」への地域医療の取り組み
地域医療の課題改善のためには、SDGsの目標8である「働きがいも経済成長も」が重要な役割を担っています。これは、差別や偏見のない雇用機会の創出を目的としており、医療従事者となる人に対して、差別や偏見があってはならないことも指しています。
また、医療従事者が患者の国籍や性別によって差別をしないことも、地域医療とSDGsの重要な取り組みです。医療従事者も患者も、年齢や性別、障害の有無などに関わらず、一切の差別や偏見をなくし、全ての人に久しく接することが求められています。それを実現できた結果として、医療従事者は働き甲斐を実感し、それが経済成長へとつながるのです。
SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」への地域医療の取り組み
SDGsの目標10は「人や国の不平等をなくそう」です。SDGsの目標の期限は2030年であり、それまでに平等で公平な雇用機会と労働環境を整備しなければなりません。これは、地域医療であっても同じであり、年齢や性別、障害、人種、民族、宗教、経済的地位などの状況に関わりなく、全ての人に公平な雇用機会と労働環境を提供することが求められています。
例として、海外の医療従事者を拒む風習があげられるでしょう。地域によっては、外国人の医療従事者を受け付けない風習があったり、外国人の医療従事者を受け付けない個人がいたりします。それは、拒否した人々が自らの健康と福祉を拒否することにつながることを認識しなければなりません。
このような偏見や差別を是正するためにも、SDGsの目標や地域医療の課題を地域住民に説明することも、地域医療を担っている医療機関や行政に求められることです。地域住民の理解を得て、医療機関での差別をなくし、公平かつ平等な雇用機会や労働環境を整備することが地域医療にとって重要な課題といえます。
東北6県の地域医療構想とSDGs

2024年12月現在で、各都道府県は地域医療構想の策定を完了しており、東北地方も策定されました。地域医療では、東北地方が重要であり、その理由の1つが人口密度の低さです。人口密度の順位では、東北6県のうち宮城県を除いた5県が40位以下です。地域医療の課題も深刻であるためここで紹介します。また、各県の地域医療構想では、SDGsの「目標3:全ての人に健康と福祉を」の実現に大きく寄与しているため、SDGsへの取り組みとして紹介します。
青森県の地域医療構想
青森県では、高齢化社会に対応した医療や介護サービスの提供体制を構築することを目的としています。医療や介護ニーズの増大に対応するために策定しました。人口の高齢化が進み慢性疾患や要介護者の増加が見込まれるでしょう。地域の実情に応じた医療資源を、効果的に配置することを促進しています。
参考:青森県地域医療構想
岩手県の地域医療構想
岩手県でも、急速な少子高齢化により、医療や介護の需要が増加することが予測されます。住み慣れた地域で生活しながら医療を受けるためには、地域全体で支える医療体制が必要です。限られた医療資源を効率的に活用し、持続的な医療提供体制を構築しました。なかでも、病床機能の分化と連携を推進し、質の高い医療提供体制を構築することを目指しています。
参考:岩手県地域医療構想
秋田県の地域医療構想
秋田県では、医療と介護の需要が増大するなかで、地域における効率的で質の高い医療提供体制の構築が必要です。構想では、急性期や回復期の医療機能が重要視しており、医療機能の分化と連携を推進し在宅医療の充実を図ります。また、調整会議を設置し、病床機能報告を基に現状を把握します。
参考:秋田県地域医療構想
宮城県の地域医療構想
宮城県では、医療提供体制の確保を図るために、施策の方向を明らかにする行政計画を立案しました。これは、医療機関や関係機関が医療提供体制を検討するに当たっての、基本的方向性を示すものです。県民の医療に対する安心と信頼を確保するため、良質な医療が適切に提供される医療提供体制の確立を目指しています。
参考:宮城県地域医療計画
山形県の地域医療構想
山形県では、効率的かつ質の高い医療提供体制と地域包括ケアシステムの構築を目指しています。そのために、地域における医療及び介護の総合的な確保を推進しなければなりません。医療計画の策定や施策の検証などを行う組織として「山形県保健医療推進協議会」を設置しました。
福島県の地域医療構想
福島県では、「治す医療」だけでなく「生活を支える医療」を重要視しています。医療や介護分野の人手不足が今後さらに深刻化することが危惧されているからです。地域医療構想策定により、効率的かつ質の高い医療の提供体制を目指しています。
参考:福島県地域医療構想
まとめ

医療とSDGsには、密接な関係性があります。SDGsの目標3である「全ての人に健康と福祉を」を達成するためには、医療が不可欠です。医療のなかでも地域医療には、多くの課題があり、その課題を改善することが、SDGsの目標達成に寄与することにつながります。持続可能な開発を行うためには、人々が健康でなければならないからです。
地域医療の課題改善のために、地位域医療振興協会がさまざまな取り組みを進めています。その取り組みもSDGsの目標につながっています。また、地域医療に大きな課題を抱えている東北地方は、地域医療構想を策定しました。これらを進めることで、地域医療の課題が改善されれば、SDGsの目標達成が見えてきます。