陸上養殖とは?種類・メリットとデメリットをわかりやすく解説

陸上養殖とは

陸上養殖とは、魚やその他の魚介類を陸上の設備で育成する方法です。伝統的な海上・河川上での養殖と異なり、陸上養殖では環境をより厳密に管理でき、持続可能な方法での養殖が可能になります。以下に、陸上養殖の主な種類とその特徴について説明します。

陸上養殖の種類

①閉鎖循環式養殖システム(RAS: Recirculating Aquaculture Systems)

閉鎖循環式養殖システム(RAS)は、養殖に使用される水を濾過して、再利用するシステムです。このシステムは、水を節約し、排出される汚染物質を減らします。また、魚病のリスクを低減し、生育環境を一年中安定させることができます。

画像出所:水産庁

淡水魚や海水魚の養殖に広く用いられており、特に価値の高い種の生産に適しています。一定量の水があれば、継続的に新しい水を加える必要がないため、海に面していないエリアでも多く活用される方式です。

②掛け流し式養殖システム

自然の水源から水を引き入れ、養殖槽を経由して再び外に放出するシステムです。水の流れが常に維持されるため、水質が比較的安定し、魚の健康を保つのに役立ちます。

主に淡水魚の養殖に用いられ、比較的大規模な養殖が可能です。

③流水再生式養殖システム

流水再生式システムは、水を部分的に浄化し再利用する方法です。掛け流し式と閉鎖循環式の中間的なシステムで、水の再利用率はRASほど高くないものの、掛け流し式よりは効率的です。

淡水魚や海水魚の養殖に用いられ、特に中規模の養殖施設に適しています。

④養殖池

伝統的な養殖方法で、自然の池や作られた池を利用します。比較的低コストで始められますが、水質管理や病気の管理が難しい場合があります。

⑤ビオフロックシステム

微生物を利用して水質を浄化するシステムで、特にエビの養殖に有効です。

陸上養殖のメリット・デメリット

陸上養殖はメリットが多く近年注目されている養殖方法であるものの、いくつかのデメリットがあります。

メリット

1.環境への影響が少ない

陸上養殖では、排水を浄化し再利用するシステムを用いるため、自然水域への汚染物質の排出が大幅に減少します。これには窒素、リンなどの栄養素や、魚の排泄物、未消化の飼料などが含まれます。

また陸上での養殖は、海や川などの天然生息地を占有せず、野生の魚類や他の水生生物への影響を最小限に抑えます。これにより、過漁や生態系への負担、病気や寄生虫の野生種への伝播のリスクが軽減されます。

2.水質管理の容易さ

閉鎖循環システムでは、水温、酸素レベル、pH値などの水質パラメータを常に監視し、理想的な環境を維持することができます。これにより、魚の成長条件を最適化し、ストレスを軽減できます。

水質が管理されているため、病原菌や寄生虫の発生が抑えられます。また、隔離された環境であるため、外部からの病気の侵入のリスクも低いです。これにより、抗生物質や化学薬品の使用を減らすことができ、より健康的な魚を育てることが可能になります。

3.地理的な柔軟性

陸上養殖は地理的な制約が少なく、都市近郊や内陸部でも設置が可能です。これにより、輸送コストの削減と鮮度の維持が実現し、地元の市場に新鮮な魚介類を供給できます。

水源が限られている乾燥地帯や、水質汚染が問題となっている地域でも、陸上養殖システムを利用することで、持続可能な魚介類生産が可能になります。

4.資源の持続可能な利用

閉鎖循環式システムでは、水の大部分を濾過して再利用します。これにより、水資源の消費を大幅に削減できます。

魚のストレスが少なく、水質が管理された環境では、飼料の利用効率が向上し、フードコンバージョンレート(FCR)が改善します。これにより、飼料コストの削減と持続可能な生産が可能になります。

デメリット

1.高い初期投資と運用コスト

陸上養殖システムの構築には、特に閉鎖循環式システムの場合、水を再利用するためのフィルタリングシステム、水温調節装置、酸素供給システムなど、高価な設備が必要です。これらは大規模な初期投資を要求します。

結果的に、水質の監視、フィルターの清掃、機器のメンテナンスなど、継続的な労力と費用がかかります。また、特にエネルギー消費が大きく、暖房や冷却、水の循環に多くの電力が必要となります。

2.技術的な専門知識が必要

陸上養殖では、魚の健康を保つために水質を厳密に管理する必要があります。これには専門的な知識が必要で、水温、pH、溶存酸素量、窒素化合物などを適切に管理する必要があります。

専門知識や経験が不足している場合、水質の急変、病気の発生、酸素不足などのリスクが高まります。これらは魚の大量死につながる可能性があり、経済的損失を引き起こすことがあります。

3.スケールアップの難しさ

小規模から中規模の生産には適していますが、大規模な生産に移行する際には、技術的、経済的な課題が伴います。設備の拡張や管理の複雑化による追加投資が必要になる場合があります。

生産量が増加すると、それに伴い水質管理や病気予防の難易度が増します。大量の魚を健康に保つためには、より複雑で洗練されたシステムと専門知識が求められます。

4.エネルギー消費の問題

閉鎖循環システムは、水温調節、水の循環、酸素供給など、多くのエネルギーを消費します。特に寒冷地や熱帯地域での温度管理は、大量のエネルギーを必要とします。

陸上養殖の持続可能性を高めるためには、再生可能エネルギー源の利用やエネルギー効率の向上が求められます。これには太陽光発電や風力発電の利用、エネルギー回収システムの導入などが考えられます。

陸上養殖が盛んな魚種

サーモン

陸上養殖で最もメディアに取り上げられている魚種の1つが、サーモンです。

サーモンが陸上養殖で生産される理由は、環境負荷の少なさであると言われています。

>サーモン養殖は他の魚種に比べて環境負荷が少ない。WWFジャパンの前川聡・海洋水産グループ長は「1キログラムのマグロを育てる場合は餌が10~15キログラム必要だが、サーモンは1~2キログラムの餌で育成できる」と説明する。水産物の中でもサーモンはヘルシー志向の人々の間で人気が高い。DHAなどを豊富に含んでおり、健康によいとされているためだ。

50年ほど前と比べると、世界の1人当たりの魚介消費量(年間)は9キログラムから20.5キログラムへ、約2倍に増加した。だが、1990年ごろから世界の漁獲量は年間およそ9000万トンのほぼ横ばいで推移しており、漁獲量をこれ以上増やすのには限界がある。

東洋経済オンライン

人気があることは当然ですが、生産観点からも優れた魚種であり、国内・海外でも多くの企業がサーモンの陸上養殖に取り組んでいます。

エビ

エビの陸上養殖もさかんに行われています。

例えば、ニッスイ社では、閉鎖式バイオフロック養殖システムを用いたエビの陸上養殖に着手したことが、2023年のプレスリリースにて公開されました。

閉鎖的な養殖池内で飼育水をほとんど換水せずに、微生物集合体(バイオフロック)によりバナメイエビの育成に適した水質を維持する「閉鎖式バイオフロック養殖システム」を採用しています。飼育水中でバナメイエビと共存させたバイオフロックが残餌や排泄物から発生する窒素源を硝化(*)し、水質を維持します。

ニッスイ

現在、エビの養殖は海外で生産されたものが、多く流通する構造となっています。

出典:水産物貿易の動向 | 水産庁

国内での生産は珍しく、今後の生産体制発展が期待されています。

まとめ

陸上養殖は、魚や水生生物を陸上の設備で育成する方法です。伝統的な海や川での養殖と異なり、より厳密な環境管理が可能で、持続可能な養殖が行えます。

ただしこれまで述べてきたように、陸上養殖は持続可能な水産業の発展に貢献する可能性を持ちながら、技術的、経済的な課題も抱えています。これらの課題を克服するための研究と開発が進められており、その取り組みはますます加速していくことでしょう。