【IUU漁業とは?】持続可能な漁業の未来を考える海洋保護について

「IUU漁業」は「Illegal, Unreported, and Unregulated」の略で、違法・無報告・無規制の漁業を指します。これは地球規模での持続可能な漁業資源の管理にとって大きな問題となっています。

IUU漁業とは?

まずは、IUUに関する概要をみていきましょう。

IUU漁業の定義と特徴

上述の通りIUU漁業のIUUとは、以下の3要素からなる言葉です。

  • Illegal(違法)
  • Unreported(報告されていない)
  • Unregulated(規制のない)

Illegal(違法)については、国内法や国際法に違反する漁業活動を指します。例えば、禁止された漁法や保護された海洋保護区域での漁業活動が含まれます。

続いて、Unreported(報告されていない)ですが、これは漁獲量や漁船の活動が適切に報告されていない漁業活動を指します。漁獲量の不正確な報告や漁船の位置情報の偽装が含まれます。

最後に、Unregulated(規制のない)ですが、これは 漁業に適用される規制や管理手続きが存在しない、または不十分な漁業活動を指します。漁業の許可や漁業権の不備などが挙げられます。

IUU漁業の具体的な例

IUU漁業の具体的な事例として、どのようなものがあるかを調べてみました。

①ロシアのカニ漁

中日新聞によると、ロシアのカニ漁において、IUU漁業が横行されていることが報じられていました。また読売新聞によれば、2022年におけるロシアから日本へのカニの輸入額は、485億円にも上るとのことでした。

これはロシアだけでなく、日本としても課題視すべき事柄と言えるでしょう。

参考:ロシア産冷凍カニ、日ロ輸出入量に20倍差 本紙WWF共同調査 | 中日新聞
参考:ロシアからの水産物輸入額は過去最高、カニは3割増…経済制裁の対象外 | 読売新聞

②日本に輸入されるイカ漁

阪井ら(2018)は、IUU漁業によって漁獲されたイカが、国内のイカ産業において243~469億円の経済的損失を生じたと推定される研究を発表しています。(2)

このように、IUU漁業は国境を越える問題であり、国際的な協力が必要です。漁業資源の移動や違法な漁業活動の逃避行動により、多くの国や地域に影響を及ぼす可能性があります。

SDGsとも関わる重要な課題

出所:SDGsアイコン|国連広報センター

IUU漁業は、持続的な資源利用の観点でSDGsとも関係性のある国際的な課題です。経済局漁業室は、以下のように述べています。

IUU漁業は、水産資源の持続可能な利用に対する深刻な脅威であり、国連持続可能な開発目標(SDGS) 14.4に
位置づけられる国際社会の共通の課題。違法漁業防止寄港国措置協定(PSM協定)、地域漁業管理機関(RFMO)、
二国間の枠組み等を通じ、国際的な対策が進められている。

違法・無報告・無規制(IUU)漁業の現状と対策 | 経済局漁業室

記載の通り、国内外問わず、違法に漁獲が行われては、海洋資源を持続的に活用することができなくなる可能性があります。

IUU漁業が世界的に問題となる理由

生物多様性への影響

IUU漁業の対象となる生物は、赤サンゴやイカなど、流通価値が高い種に集中します。そして、特定の種に限定された過度な漁獲や生息地の破壊は生物多様性の低下につながります。

多様性の低下は、生態系のレジリエンス(回復力)を低下させ、さらに多くの種の減少や絶滅につながる可能性があるでしょう。

海洋生態系への影響

IUU漁業は、海洋生態系に深刻な影響を及ぼします。

特に、無規制や非合法の漁獲は、魚種の生息数を急速に減少させることがあります。これにより生物多様性が損なわれ、食物連鎖が崩壊し、海洋環境全体が危険にさらされます。また、IUU漁業は海洋汚染の原因となり、さらに生態系への悪影響をもたらします。

漁業経済への影響

IUU漁業は経済にも大きな影響を及ぼします。

David J. Agnewら(2009)によれば、IUU漁業による経済的損失は年間100億ドルから230億ドルと推定されています。これは、合法的な漁業者が収益を得られないこと、市場価格の歪みを引き起こすこと、及び国や地域の税収を減少させることを意味します。(1)

IUU漁業への対策

IUU漁業の対策にはどのようなものが考えられるのでしょうか。本コラムでは、政策・法律による対策、技術と監視による対策、消費者の選択と認識の役割の3つの観点でまとめました。

政策・法律による対策

政策や法律の制定によってIUU漁業に対する取り組みが進められています。国際的な枠組みとして、国際連合の持続可能な開発目標(SDGs)や国際連合食糧農業機関(FAO)の国際計画行動において、IUU漁業の撲滅が掲げられています。また、個々の国や地域では、IUU漁業防止のための法律や規制を制定し、漁業活動の管理や監視を強化しています。

違法漁業防止寄港国措置協定(PSMA:Port State Measure Agreement)

PSMAは、IUU漁業を防止するための国際協定のことを言います。これは、IUU漁業の利益を絶つため、港湾国がIUU漁船の入港と利用を規制する措置を講じることを奨励する内容となっています。

FAO(国連食糧農業機関)のもとで2009年に採択され、2016年に発効しました。

参考:Agreement on Port State Measures (PSMA) | FAO

地域漁業管理機関(RFMO:Regional Fishery Management Organization)

RFMOとは、Regional Fishery Management Organizationの略で、特定の海域や魚種の持続可能な利用を目指して設立された国際組織を指します。

RFMOは漁業資源の保存と管理、科学的調査、漁業統計の収集、違法漁業の抑止など、特定の海域や魚種に対する総合的な管理を担当しています。

水産物流通適正化法

水産物流通適正化法は、水産物の流通態態の適正化を図るため、水産物の取引の公正と透明性を確保し、消費者の利益を保護するための日本でできた法律です。

具体的には、
・水産物の流通に関する不公正な取引行為の禁止
・流通事業者による不当な取引行為の禁止
・水産物の価格表示に関する規制
などが含まれます。

参考:特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律の概要 | 農林水産省

技術と監視による対策

技術の進歩と監視手法の改善により、IUU漁業の監視と取り締まりが強化されています。特に、ブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティが注目されています。

ブロックチェーンを用いることで、漁業資源の原産地や流通経路、取引記録を透明かつ信頼性のある形で記録・追跡することができます。これにより、IUU漁業で捕獲された魚介類の流通を追跡し、違法な漁獲や取引を特定することが可能となります。

例えば、世界的に有名なIT企業であるIBMは、ノルウェーにてブロックチェーンを活用した取り組みを行っているようです。

参考:SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」 | 水産養殖漁業をブロックチェーンで支援

今後ますますテクノロジーを活用したトレーサビリティの追求が進むことでしょう。

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消費者の選択と認識の役割

消費者の選択と認識もIUU漁業対策において重要な要素です。消費者は、持続可能な漁業や認証制度を持つ魚介類製品を選択することで、IUU漁業を抑制する役割を果たすことができます。

MSC認証

たとえば、消費者は持続可能な漁業認証を受けた製品(例: MSC認証)や地域の漁業管理計画に基づいた製品を選ぶことで、適切な漁業活動を支持することができます。消費者の関心や需要の変化が市場の動向を変え、IUU漁業の撲滅に寄与することが期待されています。

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以上の対策に加えて、IUU漁業対策には国際的な協力や情報共有、監視技術の強化、適切な資金とリソースの配分などが重要です。持続可能な漁業の実現とIUU漁業の撲滅には、多角的なアプローチが必要とされています。

持続可能な未来のために

持続可能な漁業とは

持続可能な漁業は、漁獲量や漁獲規模の制限、漁具の改善、漁業資源の適切な管理によって実現されます。これに加えて、法整備も重要です。漁業法の制定や漁業管理計画の策定により、適切な規制と指針が整備されます。

国際的な協定と枠組みも持続可能な漁業に貢献し、科学的な情報の共有と国際的な協力を促進します。持続可能な漁業の実現には、資源管理と法整備が相互に補完される必要があります。これにより、漁業資源の持続性と生態系の健全性を確保し、将来の世代にも豊かな漁業を継承することが可能となります。

個々人ができること

持続可能な未来のために、個々人ができることは以下のような行動が考えられます

①認識を深める

自身が購入・消費する魚介類の出所や種類について理解する。それが持続可能な方法で捕獲または養殖されたものであるか、またはIUU漁業により捕獲された可能性があるものかを調査する。

②持続可能な製品を選択する

海洋に優しく、持続可能な方法で捕獲または養殖された魚介類を選択する。エコラベルや認証を利用して、持続可能な魚介類製品を選ぶことが可能。

③食物の多様性を楽しむ

主流の魚種だけに依存せず、様々な魚種を楽しむことで、一部の魚種に対する過度な漁獲圧を軽減する。

④廃棄物の管理

自宅や地域でのプラスチック廃棄物を減らすための措置を講じる。海洋汚染は魚介類の生息環境を脅かし、IUU漁業を含む非持続的な漁業行為を助長する要因の一つです。

これらの行動は、個々人のレベルで可能な持続可能な行動です。しかし、その影響力は決して小さくありません。消費者一人一人がこれらの行動を起こすことで、社会全体の持続可能な海洋資源の管理への意識と行動を変えることが可能です。

まとめ

本コラムでは、IUU漁業について解説してきました。持続可能な漁業は、将来の世代にも豊かな漁業資源と健全な海洋環境を提供し、社会と経済の持続可能性を確保する重要な要素です。

◾️参考文献

(1)Estimating the Worldwide Extent of Illegal Fishing(2009)

(2)違法・無報告漁業由来の輸入品が国内イカ類漁業に及ぼす経済的損失の推定(2018)

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