本記事では、有機栽培の手法と特徴について解説します。環境への配慮や安全性向上の観点から注目される有機栽培について詳しく探ってみましょう。
有機栽培(有機農業)とは?
有機栽培とは、土壌の自然な生産力を引き出す栽培手法であり環境にやさしいのが特徴です。有機栽培は、化学肥料や農薬を使用せずに作物を栽培することで、安全性が高まり、商品価値の向上が期待されます。
ただし、十分な土壌管理と農作物の適切なケアが必要であり、これらが欠けると期待する品質の作物を収穫することが難しくなります。
「有機農業推進法」に従う農法
我が国では、平成18年度に策定された「有機農業推進法※注1」において、有機農業を以下と定義しています。
化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業をいう。
有機農業の推進に関する法律(平成18年法律第112号) | 農林水産省
続いて、有機栽培を理解する上で重要なポイントを見ていきましょう。
有機栽培で大切な土づくり
土づくりから始まる有機栽培は、2年以上の歳月をかけて化学農薬や肥料を除去し、安全で良質な土で栽培されます。
国が規定する有機JAS基準をクリアするためには、土づくりだけでなく、生産プロセスにも厳格な規則が存在し、これらを守り抜いて初めて、「有機農産物」と呼ばれる資格が得られます。最近では「有機」の表示をよく見かけますが、それは農家の方の地道な努力によってやっと得られる証なのです。
有機栽培で使用される肥料について
有機栽培では、植物または動物由来の原料を元にして作られた肥料を使用します。以下はその具体例です。
植物性有機肥料 | ナタネ油かす・ダイズ油かす・米ぬか・ぼかし肥・草木灰・有機石灰 など |
動物性有機肥料 | 家畜堆肥・魚粉・骨粉 など |
有機肥料は化学肥料とは異なり即効性には欠けますが、土の中で時間をかけて微生物によって分解されることで効果が現れ始めます。これにより、農作物は健康に成長するだけでなく、環境にも優しく、土壌への効果が持続的であるというメリットがあります。
有機栽培で使用される農薬について
有機栽培においては、農作物が深刻な害を受けると判断された場合にのみ、有機JAS制度で承認された天然由来の農薬が使用されます。
これらの天然由来の農薬には、以下のようなものが含まれます。
害虫の防除 | 除虫菊から抽出した薬剤・性フェロモン剤・病害虫の天敵を用いた生物農薬 など |
病気の防除 | 銅水和剤・硫酸銅・生石灰 など |
有機JASで認められた非化学農薬は、化学的に合成された農薬と比較すると即効性が低いものの、残留物がないため環境への影響が少なく、人や家畜に対する健康被害のリスクが低いというメリットがあります。
英語で言うと「オーガニック」
「有機栽培」と「オーガニック」は、基本的に同じ概念を指しますが、日本では「有機栽培」という言葉がよく使われ、農林水産省が定める「有機JAS規格」に基づいています。一方で、「オーガニック」は主に欧米で一般的であり、「有機栽培」と同じように有機農法を意味しますが、国や組織によって異なる基準が存在します。
ここでよく間違われるのが「オーガニック」は「無農薬」と同じであるということです。実際には「オーガニック」であるという認定を受ける栽培方法においては農薬の使用は認められているのです。ただし、農薬の選定においては、天然原料に基づくものが使用を許容され、一方で化学的に合成されたものは制限されています。
そして「無農薬」という表示は農林水産省によって禁止されているため、そのような表示を見かけても認定されている農作物ではないとすぐに判断するべきことを覚えておきましょう。
その他の栽培方法と有機栽培は何が違う?
有機栽培以外にも、慣行栽培、無農薬栽培、減農薬栽培、特別栽培など、さまざまな栽培方法が存在します。各栽培方法について詳しく見ていきましょう。
慣行栽培と有機栽培の違い
慣行栽培は、自治体やJA、国の指導に従って化学肥料や農薬を適切に使用しながら栽培する方法です。慣行栽培によって育てられた農作物は日常的にスーパーで見かけます。
慣行栽培ではたくさんの量を安定して出荷することを目的としているため、化学肥料によって農作物の生育のスピードを早め、害虫による被害を抑えるために農薬を使用します。有機栽培との違いは、慣行栽培では化学肥料や農薬を使用する点です。
無農薬栽培と有機栽培の違い
無農薬栽培は、栽培期間中に農薬を使わないだけでなく、近隣の田畑から農薬が混入している可能性や農薬が残留している可能性が全くないことを保証する栽培方法です。
しかし、農作物にまったく農薬を含まないことを保証する明確な基準や「無農薬野菜」であることを認定する機関はありません。
そのため消費者の間で「無農薬栽培だから100%安全だ。」という誤解が生まれることを防ぐために、農林水産省は「無農薬」という表示を使用することを禁止しています。有機栽培との違いは、無農薬栽培は一切農薬を使用していないことを保証しているので、天然由来の農薬も使用していないこと、また国や専門機関による認定がされていないことです。
無農薬栽培の意外な事実
有機栽培では、合成農薬の使用が厳しく制限されていますが、全ての農薬が一律に禁止されているわけではありません。これが誤解を招き、「有機栽培よりも無農薬栽培が安全だ。」と考える人もいます。
しかし、有機栽培は厳格な農林水産省の認定を必要とし、無農薬栽培は専門機関による認定制度が存在しないため、表示が「無農薬」であっても完全な無農薬であるとは限りませんし、そもそも「無農薬」という表示は国により禁止されています。
減農薬栽培と有機栽培の違い
減農薬栽培は、慣行栽培と比べて農薬の使用量を減らして栽培する方法です。無農薬栽培と同様に、国の基準や認定機関はありません。「減農薬」という表示も誤解を招く可能性があるため禁止されています。
減農薬栽培は、使用する量に制限はあるものの有機栽培と違い、化学農薬が使用されています。また国による認定制度がないことも大きな違いです。
特別栽培と有機栽培の違い
特別栽培では、慣行栽培に比べて化学肥料と農薬の両方を減らして農作物を育てます。農林水産省が出している基準では、化学肥料の窒素成分量が慣行レベルの50%以下であり、節減対象農薬の使用回数が慣行レベルの50%以下であることが基準とされています。
特別栽培では使用量に制限はあるものの化学肥料や農薬が使用している点であり、国により基準は定められていますが、有機栽培とは違い有機JASのように認証する制度がありません。
自然農法とは
自然農法は、耕さない、雑草を取らない、肥料や農薬を一切使用しない方法で作物を栽培する手法です。ただし、この手法には農家によって微妙な違いがあり、不耕起・不除草の部分に関しては異なるアプローチが見られるため、定義が統一されていないのが現状です。
自然の中には虫や雑草が共存していますが、植物も元気に成長し、土壌も豊かになります。農薬や肥料を一切使わなくても、自然の摂理に従って植物は育つのです。80年以上も前から自然農法は行われており、自然の力と植物自体が持つ力を最大限に引き出す栽培方法です。
農産物の安全性に関する日本の基準は?
「有機農産物」の販売には、JAS規格に基づいた検査に合格する必要があります。 JAS規格は農林水産大臣が策定した「日本農林規格」で、品質や生産方法に関する基準が厳格に規定されています。
JAS規格に適合し、検査に合格すると、「有機JASマーク」の使用が認められ、このマークがない場合は「有機〇〇」と表示できません。 消費者に対して有機農産物の高品質と生産方法の透明性を保障するために、これらの規格は重要な意味を持っています。
有機栽培のメリット
人手も手間もかかる有機栽培ですが、メリットもたくさんあります。主な3つのメリットを解説します。
①地球にやさしい
有機栽培は、土壌の微生物や豊かな生態系を守り、環境のバランスを維持する栽培手法です。無化学農薬と無化学肥料を採用することにより、土壌、大気、水域の汚染を抑制できます。最近では、この持続可能な栽培方法が、SDGs(持続可能な開発目標)の達成においても重要な役割を果たしています。
②農作物の安全性が高い
有機栽培は、化学肥料や農薬を使わずに農作物を育成するため、安心して食べられるというメリットがあります。慣行栽培では、使用される農薬や土壌の情報がなかなか透明でないため、消費者にとっては不安に思う点が残るのも事実です。
一方で、有機JAS認証では第三者機関による厳格な審査が行われており、その結果が有機JASマークとして表示されるため、食材を選択する際の有益な指標となります。
③慣行農産物との差別化ができる
有機栽培を確立し、軌道にのせることは、農業従事者にとってのメリットも大きくなります。なぜなら有機栽培によって新しいビジネスの展開が期待されるからです。有機農産物を提供するレストランや小売店への販路の拡大だけでなく、グリーンツーリズムや有機農作物の販売を促進するイベント開催などが例として挙げられます。
有機栽培の課題
これまで有機栽培の魅力を紹介してきましたが、有機栽培には課題もあります。
価格の高さ
有機栽培を正しく実践するためには、慣行栽培に比べて人手も時間も多くかかります。また国によって定められた厳しい基準をクリアしなければならないため、消費者が購入する際には、大量生産された農作物よりも高くなる傾向があります。
生産性の低下
有機栽培では、農作物の生育がゆっくり進み手間もかかります。そのために収穫できる量が制限されがちであるのが現状です。また化学肥料を使用しないため、病気や虫による被害を防ぎきれないこともあります。
持続可能な仕組み
令和4年に発表された農林水産省による「有機農業をめぐる事情」では有機農業に取り組む生産者の課題としては、「人手が足りない」ことが最上位であり、次いで「栽培管理や手間がかかる」ことであると明らかになっています。
これらの課題解決のために、オーガニック産地育成事業を進め、消費者だけでなく生産者や販売者にとっても持続可能で安定した体制を整えることが重要だといえます。
有機栽培の認証とラベリング
有機栽培は化学肥料や農薬を使用しておらず、慣行栽培の農作物よりも安心して摂取できます。慣行栽培で使用される農薬は適切に管理されていますが、農薬のリスクを最小限にしたい方は有機JASマークの表示があるものを選ぶことがおすすめです。
有機JASマークは、太陽と雲と植物をイメージしたマークです。農薬や化学肥料などの化学物質に頼らないことを基本として自然界の力で生産された食品を表しており、農産物、加工食品、飼料、畜産物及び藻類に付けられています。
有機食品のJASに適合した生産が行われていることを登録認証機関が検査し、その結果、認証された事業者のみが有機JASマークを貼ることができます。この「有機JASマーク」がない農産物、畜産物及び加工食品に、「有機」、「オーガニック」などの名称の表示や、これと紛らわしい表示を付すことは法律で禁止されています。
農林水産省
有機JASマークについては、上記のように説明されています。
「無農薬野菜」という表記は禁止事項とされている点に注意!
現在では、「無農薬」という表示は認められていないため、農作物を選ぶ際には注意が必要です。農林水産省のガイドラインによると、
平成15年5月改正前のガイドラインの表示に使われてきた「無農薬」 の表示は、生産者にとっては、「当該農産物の生産過程等において農薬を使用しない栽 培方法により生産された農産物」を指す表示でしたが、この表示から消費者が受け取る イメージは「土壌に残留した農薬や周辺ほ場から飛散した農薬を含め、一切の残留農薬 を含まない農産物」と受け取られており、優良誤認を招いておりました(無化学肥料も 同様です。)。 さらに、「無農薬」の表示は、原則として収穫前3年間以上農薬や化学合成肥料を使用せず、第三者認証・表示規制もあるなど国際基準に準拠した厳しい基準をクリアした 「有機」の表示よりも優良であると誤認している消費者が6割以上存在する(「食品表 示に関するアンケート調査」平成14年総務省)など、消費者の正しい理解が得られにくい表示でした
とあり、消費者が厳しい認定制度をクリアした有機野菜よりも、認定制度のない無農薬野菜の方が安全だと誤認することを防ぐために「無農薬」の表記を禁止しています。
まとめ
有機栽培は環境に優しく、有機JAS認証が必要です。なお、注意点としては「無農薬」の表記に関する規制が挙げられますので、本記事を参考にしてみてください。
価格は比較的高いこともおいですが、有機栽培の食材はメリットがたくさんあります。ぜひ試してみてください。