サステイナブルツーリズムという言葉を聞いたことがありますか?COVID-19の感染拡大でアウトドアや自然に触れる観光が注目されています。観光におけるSDGsの取り組みを見ていきましょう!
ここではサステイナブルツーリズムについて広まった経緯やSDGsとの関係、日本で行われているサステイナブルツーリズムについて事例を紹介します。
サステイナブルツーリズムとは?
サステイナブルツーリズムは日本語では「持続可能な観光」と表現されます。国連世界観光機関(UNWTO)では次のように定義しています。
持続可能な観光をわかりやすく定義すると、「訪問客、業界、環境および訪問客を受け入れるコミュニティーのニーズに対応しつつ、現在および将来の経済、社会、環境への影響を十分に考慮する観光」ということになります。
持続可能な観光の定義 | 国連世界観光機関
つまり、観光地として受け入れる地域の社会や自然環境に十分配慮した観光の在り方のことを言います。
サステイナブルツーリズムは、これまでの環境に負荷を与えるようなツーリズムを転換する観光の在り方で、SDGsに向けた取り組みとして大きな役割を担っています。
サステイナブルツーリズムで重要なポイント
サステイナブルツーリズムの原則を国連の世界観光機関(UNWTO)では次のように述べています。
持続可能性の原則は、観光開発に関する環境、経済、社会文化的な側面にもあてはまり、これら3つの側面の間で適切なバランスを図り、その長期的な持続可能性を確保しなければなりません。
持続可能な観光の定義 | 国連世界観光期間
つまり、
①自然環境
②経済
③社会文化
の3つに配慮されて初めてサステイナブルツーリズムと言えます。以下にそれぞれ具体的に説明します。
①自然―環境の保護と活用
自然環境にできる限り負荷を与えずに、自然を活用した観光であることが最も大切なポイントになります。
ゴミを出さないようにする、あるいは持ち帰るなど観光客としては当然のマナーとして身に付けなくてはいけません。
自然を活用した観光は、自然をそのまま楽しめるようなツアーの組み方などが提唱されています。例えば、群馬県みなかみ町ではラフティング(川下り)などのアクティビティが行われています。みなかみ町は2019年にSDGs未来都市として選定されています。
②経済―分配の平等、貧富の格差
一部の企業が観光によって利益を得るような経済ではなく、社会全体で平等に利益を得られるような公平な経済が大切です。
安定した雇用、収入獲得の機会、社会サービスを享受できるようにすることなどがその例です。
③社会文化―異文化理解
地域の文化を尊重することも大切な要素です。
文化財などの地域の遺産はもちろん、日常で使われる言語や、風習、食文化、コミュニケーションなどの違いなども異文化として体験することもサステイナブルツーリズムの一環です。
サステイナブルツーリズムが広まった背景
サステイナブルツーリズムが広まった背景として、マスツーリズムとオーバーツーリズムがあります。
これらは、環境に負荷を与えたり社会問題をおこしたりする原因となっています。
マスツーリズムと言われる現象
マスツーリズムという言葉は戦後の「大衆化した観光」という意味で使われます。
マスツーリズムの典型的なものとしてパックツアーなどの団体旅行があげられます。沢山の観光客が来ることで、天然資源などが乏しい国や地域などでは経済効果がありました。
一方でマスツーリズムによる弊害もあり、次のようなものが挙げられています。
- 自然を壊す観光施設の建設
- 観光地のゴミの増加、大気汚染
- 観光地の文化や社会を無視した文化の切り売り
- 観光客を相手にした窃盗、詐欺などの犯罪
オーバーツーリズムによる影響
オーバーツーリズムとは、観光地に許容範囲を超える観光客が押し寄せることを言います。
観光による弊害を指すことから「観光公害」とも呼ばれています。
例えば、観光客がシーズンに集中して流れ込んだり、農村などの小さなコミュニティに大量に押し寄せたりするようなことが起きています。
ゴミ、トイレ不足、渋滞、騒音問題などそこで生活する人にも影響を与えるような問題が多く、海外ではこのオーバーツーリズムによってアンチツーリズムの動きまで発生しています。
SDGsと国際基準
SDGsの実現には観光業が大きな役割を担っています。SDGsの目標7,12,14に関しては観光の役割が明記されました。
目標 | テーマ | 詳細 |
目標8 | 働きがいも 経済成長も | 2030年までに、雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する |
目標12 | つくる責任 つかう責任 | 雇用を創出し、地域の文化や産品を活かす持続可能な観光のための、持続可能な開発の効果を測定するツールを開発し、実践すること |
目標14 | 海の豊かさをまもろう | 2030年までに、海洋資源の持続可能な活用によって、また、漁業、水産養殖業、観光の持続可能な管理を通じて、SIDsやLDCsへの経済的恩恵を増進する |
また、国連世界観光機関(UNWTO)の観光と持続可能な開発目標リーフレットでは、すべての目標に対して、観光は直接的、または間接的に貢献する力があるとし、目標17すべてにおいて観光と持続可能な開発目標を掲げています。
このように、2017年には国連が「開発のための持続可能な観光の国際年」に定め世界の潮流はサステイナブルツーリズムに移行しつつあります。
なお、SDGsに関し詳しく知りたい方はこちらの「SDGsとは?具体的な内容をわかりやすく解説します」をご覧ください!
エコツーリズムやグリーンツーリズムとの違い
サステイナブルツーリズムと似た言葉にエコツーリズムとグリーンツーリズムがあります。これらは、マスツーリズムやオーバーツーリズムの問題を受けて、新たに生まれた観光の形態です。
エコツーリズムは自然環境や歴史文化の保全を、グリーンツーリズムは地域活性化を目的としています。このような目的を見ると、サステイナブルツーリズムに内包される概念であることがわかります。
環境省は、エコツーリズムを次のように定義しています。
エコツーリズムとは、地域ぐるみで自然環境や歴史文化など、地域固有の魅力を観光客に伝えることにより、その価値や大切さが理解され、保全につながっていくことを目指していく仕組みです。
エコツーリズムとは | 環境省
エコツアーでは少人数制をとったり、ガイドが同行して自然環境保全に係る案内や活動を行ったりします。1993年に世界自然遺産に登録された屋久島ではガイド協会などを中心に早い段階から行われています。
また、グリーンツーリズムについては農林水産省が次のように定義しています。
グリーンツーリズムとは、「緑豊かな農村地域において、その自然、文化、人々との交流を楽しむ、滞在型の余暇活動」
グリーン・ツーリズムの定義と推進の基本方向 | 農林水産省
グリーンツーリズムはアグリツーリズムとも呼ばれています。例として民泊をして農業や農村地域での生活を体験するツアーなどがあります。
国際認証とおすすめ地域
サステイナブルツーリズムには、「サステイナブルツーリズム国際認証」という認証があります。
国連世界観光機関がモニタリングしている世界持続可能観光協議会(GSTC:Global Sustainable Tourism Council)という認証機関が審査を行っています。
この認証を受けることで、地域のブランド化が図られ、観光客の誘致にもなり、国の支援を受けられます。
これまでは、翻訳など認証審査の困難さがあり日本の認証が世界に出遅れていた状態でした。観光庁は打開策として、2020年にこのGTSCに準拠しつつ、より日本の風土や現状に適した内容を組み込んだ日本式のサステイナブルツーリズムのガイドライン「JSTS-D」を制定しました。
この日本式の認証を受けることで、サステイナブルツーリズム国際認証の審査を受けやすくなります。
またGTSCと連携した国際的な認証機関の1つとして「グローバルディスティネーション(GD)」(オランダのNPO法人)という機関があり、「世界で持続可能な観光地域100選」として日本は6か所が選ばれています。
- 北海道ニセコ町
- 岩手県釜石市(2018年から連続認定)
- 神奈川県三浦半島観光連絡協議会
- 京都市
- 岐阜県白川村
- 沖縄県
*100選に選ばれた地域は上記記載の地域です
“おすすめ”最新のサステイナブルツーリズム事例
これまでサステイナブルツーリズムに関し、言葉の定義や認証の仕組みを紹介してきました。続いては具体例として、2020年の観光庁の報告による事例からいくつか紹介しましょう!
(参照元:持続可能な観光の実現に向けた先進事例集)
①福井県あわら市
風力発電や木質バイオマスなど再生可能エネルギーの先進地としてアピールすることにより、SDGsの学習の場として修学旅行の誘致に成功しています。
②沖縄県
沖縄県は重度心身障害者の団体旅行のためのガイドラインを作成。旅行業事業者が障害者団体旅行のプランを作るマニュアルとして活かせるようなリーフレットを作成しました。
また、沖縄県竹富町では地域のつながりとして根付いている「うつぐみ」の精神を観光に活かした活動をしています。
うつぐみとは「一致協力する」という意味。入島料で環境保全を行っています。
③大分県姫島村
島に来る観光客の移動手段として超小型モビリティ(電気自動車)を活用。充電はすべて太陽光発電を使っています。
まとめ
以上、サステイナブルツーリズムについて紹介しました。まとめると次のようなことが言えるでしょう。
・サステイナブルツーリズムとは環境や社会に配慮された持続可能な観光のこと
・マスツーリズムやオーバーツーリズムによる問題を解決し、エコツーリズムやグリーンツーリズムを内包する観光の在り方である
・国際認証「サステイナブルツーリズム」の審査を通ることで観光地としての付加価値をつけることができ、SDGsの実現に近づくことができる。
今はCOVID-19の影響で観光業は大きな打撃を受け、苦戦をしている地域や団体も多いことでしょう。その中でもサステイナブルツーリズムの導入に向けて様々な取り組みを行っています。私たちもサステイナブルツーリズムを選択し、よりよい観光をしていきましょう!
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